アニッシュの記事 2013年12月

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♪ アニッシュが町にやって来た!!

[2014.05.08]

Anish Giri is coming to town, yes, to Hakodate!

hakodate

アニッシュ・ギリ君が函館で同時指導対局を行う!

 チェスを習っている子どもたちのところに世界1の選手が突然やって来たら大騒ぎでしょうね。しかし、そんなことはあり得ないことです。クリスマスでもなければ!

 2013年12月28日(土)、函館市でそんなあり得ない奇跡が起こりました。函館市総合福祉センター4階においてアニッシュ・ギリ君(19歳)がオランダからやってきて、チェス教室の生徒相手に同時指導対局を行ったのです。この模様は12月31日の北海道新聞にも紹介されました。

 参加したのはチェス教室函館の生徒、そしてそのお母さん、お父さん、全部で26名となりました。アニッシュもこれほど子どもたちが多いとは思わなかったそうで、日本語の「楽しかった」をツイッターしていました。

 このイベントはアニッシュ・ギリが札幌チェスクラブに3年近く在籍していたことが縁で実現しました。彼が初めて獲得したトロフィーは他でもない2003年の北海道選手権、(このときの準優勝は山田弘平でした)今でもそのトロフィーは自宅に飾ってあるそうです。

「日本には特別の思い入れがあります。」

 指導料は形式的にとりました。子どもたちにチェスでお金を稼いでいる人がいることを実感させるためにです。しかし、ほとんどボランティアで同時対局をやってくれて、さらにへとへとなはずなのに、ほとんど全員とブリッツの交流までやってくれました。世界ジュニア・ラウンキング1位のグランド・マスターがどうしてそこまでやってくれるのでしょうか?

  「日本には特別の思い入れがあります。恩返しと受け取ってもらってもかまいません。」が彼の言でした。年末、のんびりと札幌で家族と過ごしていたのに、わざわざ函館まで来てくれたアニッシュ・ギリ君に感謝したいと思います。

 指導対局の結果は予定時間を余して全勝、ブリッツも全勝。ジュニア世界1のプレーヤーと初級者では全勝でも当然で驚くに当たらないのですが、子どもたちはその強さに驚いていました。おそらくどのくらい強いのか見当もつかなかったことでしょう。

 しかし、チェスをよく知っている者ですら驚くこともありました。ほとんどのブリッツで持ち時間1分を使わずにメイトしているのです。しかも、左右の手を使って2局同時にプレーしながら(!)ですよ。そんなの簡単でしょという方、ぜひご自分でやってみてはいかがでしょうか。

 最後に観戦者の笑いもとりながら

 下の動画はそのときの最終イベント。アニッシュが北海道のトップと同時にプレーした貴重な記録です。レーティングは二人とも1800近く。40局以上対局した後、持ち時間5分のブリッツなのに、アニッシュは楽に6分少々ですべてを終わらせました。最後に観戦者の笑いもとりながら!

 

 このときにおこなった貴重なインタビューは後でこのサイトに掲載します。どうかお楽しみに!

 


2013 ワールド・マインド・ゲームス

[2014.05.07]

「みなさんにメリー・クリスマス、そして新年おめでとうのメッセージを!」

logo

 2013年12月12日から18日にかけて北京(中国)で行われた毎年恒例のスポーツアコード・ワールド・マインド・ゲームスでアニッシュがどう戦ったかをお伝えします。この大会は2008年から行われていて、チェスの他にブリッジ(トランプ)、ドラフツ(チェッカー)、囲碁、シャンチー(中国象棋)の5種目について世界トップ・クラスが集まって1位を競い合う競技会です。

 アニッシュの2013年の総括も含み、この記事は、チェス・ファンには読み応えのある面白い記事となっています。世界トップ・レベルと堂々と渡り合うアニッシュの冒険をどうぞお楽しみください。

 そして、天才とはどのようなレベルのラピッド(早指し)、ブリッツ(超早指し)を指せるのか、この興味深いテーマについて、記事や棋譜をご覧になったうえで、読者ご自身の答えを出してみていただきたいと思います。

>>アニッシュが選んだゲームの解説<< (盤なしで棋譜を鑑賞できます)

リンク: ワールド・マインド・ゲームス公式サイト

giri in beijing

「予備のクイーンは、クイーンが盤上にあってポーンが成ったときに使う駒だという説もあるが、アニッシュが実証しているように、実は、取った駒がまだ何もないときに回して遊ぶための駒である。」チェスベースの写真コメントより © Chessbase

 腕試し

© Official website

 今年を何でしめくくるかは人それぞれだ。もちろん、ケーキの上に乗っかったチェリーをつまむのも悪くないが、僕は、北京で行われたワールド・マインド・ゲームスに参加し、チェスの腕試しをすることにした。

 この大会では招待された16人がラピッド、ブリッツ、そして変なチェス(昨年は目隠し、今年はバスク・システム)で競い合う。観戦することはもちろん、参加するのことも楽しい大会だ。いつもはラピッドがスイス式7ラウンド、ブリッツがラウンド・ロビン(総当り)だったが、今回はダブル・ラウンド・ロビンだった。つまり僕たち参加者はそれぞれ2回ずつ対戦する訳だ。新しい形式のバスク・システムは5ラウンドだった。それはサンセバスチャン大会で発明された新システムで(ご多分に漏れず「再発明」なのだが)プレーヤーが2つの盤でお互い同時に対局するというものだ。いわば同時におこなうミニ・マッチと言える。

© Official website

 この大会が中国の首都、北京で行われて(僕の記憶が正しければ)3回目になる。とにかく、この大会は、僕の公式サイトやニュー・イン・チェス・マガジンで僕のグチを書き連ねるためのメイン・ターゲットになっていた。時差ボケや、料理が口にあわないことや、何やかやと・・・。

 今年は、そんなマイナス要因をすべてをチャラにするため(もしくは最高のマイナス要因として、と言いかえてもいいけれど)、僕のガールフレンドをこの大会に連れて行くことにした。それもあってか、実際の話、今回は北京という場所については僕の味方になってくれた訳だが、どんな種目についてもマイナスの成績は今までどおりで、それをさけることはできなかった。とはいえ、今年は今までよりはずっと楽しく試合をこなすことができたのは事実だ。

 

 ボコボコにされたラピッド、そしてブリッツの30ラウンド

 ラピッドの1ラウンドは僕の負けで始まった。ネポに対してペット・ラインにしているグリュンフェルト Be3 定跡でまたもやしくじったからだった。2局目の対マメジャロフ戦はまた僕の悲劇かと思われたが、突然形勢がひっくり返って勝ってしまった。

ゲーム解説:ギリ - マメジャロフ(ラピッド)

 こんな幸運が上昇のきっかけになったのか、なんて読者は思われたかもしれない。でも、全然その反対だった。その後の5ラウンドでとれたポイントは、たった 1/2 点だったからだ。

 このままの状態で指し続けたら、30ラウンドもの数のブリッツをこなした後では一体どんなみじめな結果になってしまうんだろうなどと思い悩むことは、始めから止めようと思っていたのは正解だった。もっとも、その後の3日間、僕は泣かず飛ばずであったが、その前よりはましなプレーができたので、(ましなプレーだったのに泣かず飛ばずかよと言われそうだが)心配する必要はなかったと言える。

© Official website

 ブリッツでは敗戦から入るのが僕の伝統行事なので、さほどショックではなかったし、その直後、ブリッツ世界チャンピオンのグリシュックに勝つことでリベンジすることができたのはよかった。 それでも3ポイントしか取れず、初日の僕はまだひどい状態だった訳だが、2日目はレコとワン・ハオに勝ったことで、少しいい感じになれた。その日は4ポイントでまあまあだった。

 最終日はちがった。まるで背中に羽が生えたように(1手ばったりのポカで負けたゲームもあったけど) 6.5 ポイントも取ることができた。 僕はブリッツがその日で終わることが、心底悔しかった。(ホント、30ラウンドなんて、短すぎなんだよっ!!) 終わりに近づくにつれて僕は昇り調子だった。ゆっくりと自分のリズムがもどってきて、ここぞというときの落ち着きもそなわってきた。 (1手メイトを見逃した)29局目のゲームは、たまたまそうなっただけだった。

 「元カモ」とバスク・システム

 入賞者になった喜びはさておいても(16人中10位までが入賞なので)、僕の8位タイという控えめな成績を考えれば実のところ入賞は大したものではなかったが、僕が一番うれしかったのは、特にブリッツのエキスパートたちから少なからぬ勝利をもぎとったことだった。たとえばグリシュック、マメジャロフ、イワンチュック、そしてその他多くの強豪たち・・・。特にその中には「元・カモにされたプレーヤー」でトラウマになっていたアロニアン(2戦して僕の1勝1分)とワン・ハオ(僕の2戦全勝)も含まれていた。

ゲーム紹介:ギリ - レコ(ブリッツ)

ゲーム紹介:イワンチュック - ギリ(ブリッツ)

ゲーム紹介:ギリ - アロニアン(ブリッツ)

 もちろん、僕自身が負けたゲームも少なからずある。ご紹介するのはそんなゲームから2局。

ゲーム紹介:ギリ - ポノマリオフ(ブリッツ)

ゲーム紹介:ギリ - ネポミニャーチ(ブリッツ)

 ところで、それらブリッツのゲームは1局10分程度の超早指しという性格上、プロにとってはまじめな研究対象ではなく、深く分析してはいけないと思っているので、申し訳ないが、あっさりとした解説になっていることをご了承願いたい。

 バスク・システムは想像以上に大変だった。最初の相手、変幻自在の魔神であるレヴォン・アロニアンは、テンポよく両方のボードで駒を踊らせて、のっけから僕をパニックに落とし入れた。その時点ではどこを見て何を考え、何をどうすればよいのか見当もつかず、両方のボードでレヴォンが僕にチャンスをくれたのに、気づくことも活かすこともできなかった。

© Official website

 2ラウンドで当たったのは、僕と同じようにこの新しい設定にとまどいをかくせないペーター・レコだったので、まるで申し合わせたように僕たちは1つのゲームを早々にドローとして1局のラピッド・ゲームをやっているみたいにした。運の悪いことに、僕の黒番をドローにしたのだが、僕の白番のゲームはすでにかなり悪い状態だった。しかし、ラピッドの種目では優勝した絶好調のペーターが、どうした訳かそのポジションを台無しにする崩れを見せ、結局は完全にドローの局面で僕が手のくり返しをさけるぐらいになっていた。僕が最高のプレーをした訳ではないが、それでも最後のチェス盤活用法がとても気に入っているゲームとなった。

ゲーム紹介:ギリ - レコ(バスク)

 これが僕の調子をとりもどさせた。しかし、次のラウンドでよく指せていたカムスキーとの黒番を勝ちにもっていけずに流れをつかめなかった。次の日も両方のゲームに神経を集中させることができず、ワン・ハオとヴァシエ・ラグラーヴに1対1のスコアだったのは、むしろ成功といえるくらいだった。勝ったゲームの中で面白かったものもあった。対ワン・ハオ戦では、ふたたびクイーンによるすてきなチェス盤活用法が現れた。

ゲーム紹介:ワン・ハオ - ギリ(バスク)

2013年を振り返って

 北京でのこのイベントが、僕にとって今年最後のチェス・トーナメントだったので、2013年を振り返ってみるときがきたように思う。

 ほとんどのトーナメントで大きな浮き沈みはなかった。今年の夏に僕が高校を卒業したことを考えれば、今年は単につなぎとしての役割しかなかったと感じている。僕が参加したメジャー大会では、大きな勝利もなく、平凡な成績に終わり、その目標は来年にくりこしとなった。僕のレーティングは少しの上下動はあったが、それほど大きくは変わらなかった。

 とにもかくにも、今は休養のときだ。そして新年となる2014年のために胸いっぱいの気持ちと新しいエネルギーで満たしたい。そして、みなさんにメリー・クリスマスと新年おめでとうのメッセージを送らせていただきたい。

(ちなみにこの直後、アニッシュは札幌で家族と年末を楽しんでいる・・・)

ラピッドのクロステーブル

Rank Name Rtg FED Pts
1 Wang Yue 2729 CHN 5
2 Leko Peter 2738 HUN 5
3 Grischuk Alexander 2828 RUS 4.5
4 Dominguez Perez Leinier 2758 CUB 4.5
5 Mamedyarov Shakhriyar 2795 AZE 4
6 Nepomniachtchi Ian 2799 RUS 4
7 Wang Hao 2690 CHN 4
8 Karjakin Sergey 2787 RUS 3.5
9 Radjabov Teimour 2749 AZE 3.5
10 Ponomariov Ruslan 2748 UKR 3
11 Vachier-Lagrave Maxime 2761 FRA 3
12 Kamsky Gata 2734 USA 3
13 Ivanchuk Vassily 2732 UKR 3
14 Aronian Levon 2797 ARM 2.5
15 Le Quang Liem 2756 VIE 2
16 Giri Anish 2700 NED 1.5

 

ブリッツのクロステーブル

Rank SNo. Name Rtg FED Pts
1 11 Karjakin Sergey 2837 RUS 19.5
2 16 Aronian Levon 2817 ARM 19.5
3 15 Vachier-Lagrave Maxime 2825 FRA 18
4 8 Mamedyarov Shakhriyar 2721 AZE 18
5 7 Nepomniachtchi Ian 2830 RUS 17
6 5 Le Quang Liem 2841 VIE 17
7 6 Grischuk Alexander 2798 RUS 16.5
8 1 Ponomariov Ruslan 2774 UKR 14.5
9 14 Giri Anish 2747 NED 14.5
10 10 Ivanchuk Vassily 2750 UKR 14
11 4 Kamsky Gata 2671 USA 13.5
12 13 Dominguez Perez Leinier 2769 CUB 13.5
13 12 Radjabov Teimour 2755 AZE 12
14 9 Wang Yue 2723 CHN 11
15 3 Leko Peter 2722 HUN 11
16 2 Wang Hao 2698 CHN 10.5

 

ブリッツのクロステーブル

Rank Name Rtg FED Pts
1 Karjakin Sergey 2787 RUS 8.5
2 Mamedyarov Shakhriyar 2795 AZE 6.5
3 Ponomariov Ruslan 2748 UKR 6
4 Ivanchuk Vassily 2732 UKR 5.5
5 Kamsky Gata 2734 USA 5.5
6 Grischuk Alexander 2828 RUS 5.5
7 Wang Yue 2729 CHN 5.5
8 Le Quang Liem 2756 VIE 5
9 Wang Hao 2690 CHN 4.5
10 Nepomniachtchi Ian 2799 RUS 4.5
11 Aronian Levon 2797 ARM 4.5
12 Dominguez Perez Leinier 2758 CUB 4.5
13 Giri Anish 2700 NED 4
14 Radjabov Teimour 2749 AZE 3.5
15 Vachier-Lagrave Maxime 2761 FRA 3.5
16 Leko Peter 2738 HUN 3

 

大会公式サイト より


2013 世界チーム選手権

[2014.05.06]

「もっと行ける感じはあったが、6位は決して悪い成績ではない」

world team champ

 今まで更新がとどこおっていましたが、復活しますので、またアニッシュ公式日本語サイトをよろしくお願いします。この一週間くらいで昨年12月の記事から順々にアップしていき、現在に追いつく予定です。

 2013年11月24日から12月5日にトルコのアンタルヤで行われた世界チーム選手権にアニッシュ・ギリがオランダの1将として参加し、チーム6位の好結果に大きく貢献しました。優勝はロシア。それは順当ですが、2位に中国が入ったことが、世界チェス界が大きく動いていることを予感させました。以下アニッシュ自身が語った記事を抜粋して掲載します。

リンク: 世界チーム選手権公式サイト

giri
© Chessbase

 

すべての大陸を代表するチェスが強い10カ国

wtc

© Official website

 このイベントは、すべての大陸を代表するチェスが強い10カ国によるラウンド・ロビン(総当り)のチーム戦だ。 そんな選ばれしエリート・チームの中に、何でオランダが入っているのか不思議だなんて思う方がおられるなら、僕たちの国がイスタンブールのチェス・オリンピアード(最高のチーム戦)で6位を勝ち取った記事をお読みいただきたい。

 他のチームをご紹介する。優勝候補はロシアを筆頭に、アルメニア、ウクライナ、USA、中国、(今回は若干弱い)アゼルバイジャン。それほど強くないのがドイツ、トルコ、そしてアフリカ代表のエジプトのチームだ。強いチェス・プレーヤーが世界中に散らばっていて、1国や2国に集中していない昨今のチェス界を考慮すれば、どのチームも、どの参加者も表彰台をねらっていておかしくはない。

ひどいスタートと上昇のきっかけと

wtc

© Official website

 僕たちのチームは中国とアゼルバイジャンとのマッチを落とし、最悪のスタート。この大会全体を通して僕の調子がそのままチームの調子となったのは事実で、それは僕がチームのリーダーという立場を考えれば自然の流れだった。最初の2ラウンドの僕のプレーはまあまあだったが、この大会の間ずっとそうだったように、あまりにスローで気合の入らないものだった。そのせいでディン・リーレン(中国)と、ラウフ・マメドフ(アゼルバイジャン)に簡単にドローとされてしまった。よって僕たちのチームは両方ともやられてしまった訳だ。

  次の相手は、当たるなら今でしょうといった感じのドイツだった。僕はやっといい内容で第1ボードでケンキン(ドイツ)を破り、チームの勝利を固めることができた。普通は強いプレーヤーを第1ボードにするが、弱めのプレーヤーを持ってくるという作戦が最近の流れ。だが、それはあまりに危険過ぎるのではないだろうか。第1ボードがドローを守りきり、第4ボードで取りに行くというのは、両方のプレーヤーに過大な負担を強いるおそれがあるからだ。実際、僕たちはこのラウンドのゲームを、僕以外すべてドローにして相手を圧倒することができた。

 次のラウンドで僕たちは同様にトルコを破り、上昇のきっかけをつかんだ。ちょっと焦ったところはあったが、僕はそれでも何とか好手を連発して2勝目をものにすることができた。

ゲーム解説: A. Ipatov - A. Giri (解説は英語) 

wtc

© Official website

 2勝して、エジプトの対戦を控えて、僕たちは当然もうひとつ行くぞって気分になっていた。勝つことは勝ったのだが、アブデル・ラジク・カールドとの対戦は、言いたくないが、楽に勝てたとはとても言えないゲームだった。彼のうまいルーク・サクリファイス(駒捨て)を許してしまったからだ。しかし、緊迫した局面は長く持たず、勝利が転がり込んできた。

 もしも、最終局のエザート・モハメッド対ウラジミール・クラムニック(元世界王者)戦がなかったら、僕がこのゲームにふたたび注意を向けることはなかっただろう。そのゲームではクラムニックが同じようなサクリファイス(今度はクイーン)を許して苦しめられることになった。必見のゲームだと思う。

厳しい後半戦

wtc

© Official website

 その試合の後はレスト・デイであり、僕たちは置かれた状況を冷静に分析するゆとりを持つことができた。結局、最後にどんな順位になるのか、そこにびくびくする必要はもうなかったし、さらに上を目指して戦おうという気持ちだった。とはいえ、残るは楽じゃない相手ばかり。ウクライナ、ロシア、アルメニア、USAだった。

 最初の5ラウンドでリードしていたのはウクライナ・チーム。イワンチュックは第1ボードで安定した成績だったし、コロボフは第2ボードで力強さを見せつけていた。

 6ラウンドはどうなったか。さあ、考えていただきたい。相手はスーパー・オランダ・チーム!

 僕自身は序盤を完全にミスし、全部交換してドローにすることにした。その途中でも僕にちょっとした不注意な手があったものの、ポジションのコントロールをはずすことなく、ドローに収めることができた。そして、マッチの結果は、2.5 対 1.5 で僕たちの勝ち。 

 大感激ではない(たとえば、僕自身のような場合の)者もいたが、チーム・メイトの何人かは大感激の結果だった。しかし、次の2つのラウンドは完全にボロボロ状態となってしまった。

ゲーム解説: V. Kramnik - A. Giri (解説は英語) 

 他のチーム・メイトもチャンスがなく、ロシアに対して 3.5 対 0.5 。これは完封一歩手前の成績だった。こんなひどい状態の中で、どうやって 0.5 点も取ることができのかさえ不思議なくらいの負け方だった。

  対アルメニア戦においても同じだった。悪いことがこれほど重なることはないと思えるくらい、僕にとっては最悪なラウンドだった。

ゲーム解説: A. Giri - L. Aronian (日本語解説!) 

 最終ラウンドの対USA戦も、チームの結果は僕のプレーを反映していた。勝つチャンスはあったが、最後は 2対2、チームとしてドローに甘んじた。グリュンフェルトでヒカルが用意した変化を打ち破ることに成功し、黒番ながら優勢をつかむチャンスさえあったが、2つのひどい敗戦のあとで僕は安全策をとることに決め、コントロールを失うことがないように、神経をピリピリさせながら指していた。

6位となって

wtc

© Official website

 この大会の優勝は最終的にロシアだったが、この期に及んで信じられない事件が起こった。チェス界のトップをねらう強者にとって最終ラウンドの対エジプト戦は何の問題もないように思われたが、突然第1ボードがかなりプレッシャーのかかる注目の局面となる。これは、現代チェス界において、目の前の一戦だけに限れば各プレーヤーどうしの差なんて目に見えるほど大きくないのだという事実を、あらためて証明した事件といえるだろう。

 オランダ・チームについて言えば、もっと行ける感じはあったが、6位は決して悪い成績ではない。僕自身については、確かに(レーティングが 2730 の割には)ひどいパフォーマンスだった。その成績を考えると、この大会で僕の心の状態が絶好調でなかったことは明らかだ。それほど僕のゲーム内容が悪かった訳ではないが、まだまだやるべきことがあるということなのだろう。幸運なことに、これからもレベルが高いイベントが多くあり、そのときにその辺りを修正したことを試せたらいいと思っている。

 数日後は中国で恒例の面白いトーナメントがある。そこで僕のラピッドとブリッツの技術がどこまで通用するか試したいし、来年になってしまうが、次にはもちろんヴァイカンゼーを楽しみにしているところだ。

[アニッシュ・ギリ] 

順位 チーム 回数 団体点 個人点
1 ロシア 9 7 1 1 15 23
2 中国 9 7   2 14 22
3 ウクライナ 9 7   2 14 21
4 USA 9 4 2 3 10 20½
5 アルメニア 9 4 2 3 10 20
6 オランダ 9 4 1 4 9 17
7 ドイツ 9 4   5 8 17
8 アゼルバイジャン 9 3 1 5 7 18
9 トルコ 9 1 1 7 3 12
10 エジプト 9     9 0

大会公式サイト より