アニッシュの記事 2013年10月

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グランプリ・ファイナル 対ゲルファント戦の棋譜解説

[2013.10.20]

アニッシュが全力の解説

gelfand

アニッシュとゲルファント © Official website


 先日のグランプリ・ファイナルでは、アニッシュが不調で最下位でした。その最初のつまづきがこの試合です。批評家たちには散々に言われたアニッシュでしたが、その安易な批評がまちがっていることをこの解説で証明したいかのような全力の解説になっています。スラブのc5突きをめぐるテーマ、その意味では非常に勉強になる一局です。ちょっと量が多いという方は棋譜と解説を斜め読みするだけでもチェスの深さに触れることができるでしょう。

 訳も全力でやりました。レーティング1500以上あれば誰でも理解できるように丁寧に書いたつもりです。グランド・マスターがどんなふうに考えてチェスを指しているのか、その秘密をどうぞご覧ください。

対ゲルファント戦の 棋譜解説more


アニッシュの棋譜解説

[2013.10.14]

アニッシュの名局の訳完成

 

両者の好手連発の名局

 9月に行われたスペイン・チーム選手権での一局。これは両者の好手連発の名局でした。白のアニッシュは序盤で優位に立ちます。そしてセンターとキングサイドから攻めますが、黒番のGMイトゥーリサガーも持ち時間がない中で絶妙の受けを連発してもつれます。

 上の図は黒番が h5 とした所です。焦る白番のアニッシュですが、次に指した手がアニッシュ自慢の一手。その手が分かりますか?

対イトゥーリサガー戦の棋譜解説more

本物のチェスの面白さ

 それは、35.Bg2! というビショップをひとつだけ引くだけの一手でした。

 ねらいは g5 のポーン突きなのです。これでキングサイドが白のものに・・・。とはいえ、チェスを知らない人にとっては何が何だかさっぱり分からないでしょう。しかし、ここはお互いの読みが真正面からぶつかった場面、本物のチェスの面白さをアニッシュが解説してくれます。

 もちろん解説のレベルは非常に高いので上級者(レーティング1500以上)でないと理解は難しいでしょう。しかし、手順を並べるだけでもチェスの深淵を知るきっかけになります。実際、札幌にいるチェス・ファンのある中学生が「いつも見ています」と言ってくれました。その子は今どんどん実力を伸ばしています。

 どうぞご覧になってみてください!


FIDEグランプリ・パリ大会 (8)

[2013.10.08]

FIDEグランプリを戦い終わって・・・BY アニッシュ・ギリ

開会式(クリック!) © Official Website

「僕自身の物語は、そんなに面白くないだろうし、わくわくもしないだろうが、こんな最悪のトーナメントでも、反省、分析、そしてそれを生かすプロセスを示すことは、何かの助けになるかもしれない。」 FIDEグランプリ最終戦、パリ大会での最下位について、自身の敗北をクールに分析しています。アニッシュ・ギリから最新の記事が届きました!

 棋譜解説もあります! more

 

控えめな順位


© Official Website

 グランプリ・シリーズの最終戦はパリで行われた。もっと正確にはベルサイユ、そこはフランス革命前にキングとクイーンが冬の間住んでいたお城で有名な市街だ。

 グランプリ・シリーズは世界選手権の予選をかねている。グランプリで選ばれる2名の代表のうち最初の代表は、すでに元世界チャンピオンのヴェセリン・トパロフがつかんでいるけれども、もう1人の代表の席は残っていた。今回参加しているカルアーナとグリシュックの2人には、単独優勝した場合のみ、現在マメジャロフが座っているその席を奪える可能性が残っていた。

 僕はといえば、ランキング表の控えめな順位に甘んじていたし、結局このトーナメントで最下位だったことも、その不運な状況に何の影響もなかった。

 しかし、最初のラウンドから、僕はやる気満々だったし、黒番なのにスタートしてすぐに指しやすいゲームになっていた。しかも相手は、僕を苦手としているボリス・ゲルファントだった。

 ★ゲルファント vs. ギリのゲーム解説 more

最下位に!


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 この不運な敗戦によって、僕だけが最下位に落ちてしまった。そして、それが宿命だったかのように、僕はそこからはい上がることは一度もなかった。序盤や中盤で面白いアイディアを披露することは何回かあったが、僕のプレーは安定性を欠き、4局目には単純な計算ミスからもうひとつのゲームを落としてしまう。

 ★ドミンゲス vs. ギリのゲーム解説 more

 もちろん、カムバックする望みを捨てた訳ではなかったが、僕の不調は次のゲームで目に見えて明らかになった。美しい駒の組み換えをしておきながら、マロツィーのようなエンドゲームで僕の相手、エチエンヌ・バクロにカウンター・プレーを許してしまっただけでなく、完全にコントロールを失い、トーナメント表に新たなゼロを付け加えてしまったからだ。

 ★ギリ vs. バクロのゲーム解説 more

 僕が敗戦を重ねることに加えて問題だったのは、僕がうまくプレーしたときでも勝ちに近づくことがほとんどなかったことだった。僕が黒番で当たったポノマリオフ、ワン・ハオ、そしてイワンチュックのゲームは堅くしまったゲームだったが、おそらくそれ以上の結果を得ることだってできたはずだった。というのは、彼らのような強豪プレーヤーたちも不調で、僕と同じように、ベルサイユにいる素敵なときを楽しむ余裕がなかったはずなのだから・・・。

ベルサイユと後半戦


© Official Website

 ベルサイユのことを言わせてもらうなら、この市街は絶対に訪れるべき所だ。そこにある城と庭園には、旅行に飽きた人でさえ感銘を受けることだろう。そして、あなたがメチャメチャなチェスを指そうなどと思いつかない限り、ベルサイユというパリのとなりにある小さな天国で素晴らしい時間を過ごせるはずだ。

 このトーナメントの後半戦で、僕の状態は少し好転し始めていた。しかし、状況はすでに救いようがないものだった。フレシネに対してユニークでタクティカルな決め手を見逃したことや、絶好調のナカムラに絶妙な受けを見せつけられたことはあっても、僕の順位には何の変動もなかった。

 ★ギリ vs. フレシネのゲーム解説 more


© Official Website

 さらにグリシュック戦での敗北。このゲームに関してだけは、僕は最初から最後まで何もいいところなくやられてしまっていた。

 このトーナメントはゲルファントとカルアーナの同時優勝に終わる。どちらも研ぎ澄まされた精神状態で相手のミスをしっかりとがめていた。この両者の活躍とトップに残り続けた結果は賞賛に値すると同時に、学ぶべきところが多々ある。

 その一方、僕自身の物語は、そんなに面白くないだろうし、わくわくもしないだろうが、こんな最悪のトーナメントでも、反省、分析、そしてそれを生かすプロセスを示すことは、何かの助けになるかもしれない。

 この敗北にもっと学ぶべきことがあるのかないのか、まだまだ考えなければならない。いずれにしても、予定表にぎっちり詰まった大会スケジュールこそ、今の僕にとってみれば一番の支えであるのはまちがいない。

 


FIDEグランプリ・パリ大会 (7)

[2013.10.05]

   logo

FIDEグランプリ・パリ大会 2013年

公式サイトライブクロステーブルChessbaseChessbomb

アニッシュの棋譜 (ビューワー付き)・ 写真ギャラリー

大会すべてのPGNがあります。また、アニッシュの全ゲームも鑑賞できます。→ game2013paris

giriinparis

1ラウンド開始前のアニッシュ・ギリ © Official Website

カムバックしたい!

 今回、どんなにアニッシュ自身ががっかりしたか、想像に難くないのですが、本人から次のようなツイッターが発信されていましたのでご紹介します。大会前と大会後のツイッターです。

twitter
twitter

<大会前> グランプリ・シリーズの最終回でパリに行く途中。最初の試合は明日(>_<) さあ、しっかり、がっちり(ready and steady)やるぞ! [アニッシュ]

 

twitter
twitter

<大会後> パリGPの終盤は持ち直したが、結局、しっかりでも、がっちりでもなかったなぁ~(^^) 次はいろいろチーム戦が控えているから、そこでカムバックしたい! [アニッシュ]

アニッシュのカムバック、そのニュースはすぐにお伝えできるでしょう!

優勝を世界選手権のシステムについて

finale

 1位~3位の表彰式 © Official website

 このシリーズを終わるに当たり、世界選手権のシステムを解説したいと思います。パリ・グランプリの公式サイトでWGMアリーナ・ラミ(オランダのGMエルヴィン・ラミの妻)が 記事 の中で分かりやすく説明していましたので、それをもとにしています。

 今年11月、世界チャンピオンのアナンドと挑戦者のカールセンがインドのチェンナイで世界選手権を行うことになっています。

 その後、選ばれた8名のプレーヤーが、キャンディデート・トーナメント(世界選手権挑戦者決定戦)を戦って、優勝した者が世界選手権に挑戦します。この大会はスイスではなく、それぞれ白黒2局の総当りの大会(つまり14ラウンド)です。ではこの8名はどうやって選ばれるのかというと、・・・

 ① インドの世界選手権で負けた者、② ホスト国から1名、③ レーティングの高い者から2名、④ 前回トロムソで行われたチェス・ワールドカップから2名、⑤ グランプリから2名。この①~⑤による合計8名です。

 実は、⑤のグランプリから2名が一番手間ヒマがかかる選出方法です。6回行われる大会に4回だけ出場が許されていて、その中でベスト3回のGPポイントの合計の大会順に2名です。GPポイントというのは単独1位に170点というように決められているポイントです。

グランプリ・パリ大会優勝なのに世界選手権予選落ち?!

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 パリの夜、シャンパンで打ち上げパーティー © Official website

 

 このパリ大会の前、すでにトパロフ410点、マメジャロフ390点の上位2名は確定しています。逆転でマメジャロフを抜かす可能性があるのはグリシュック230点、カルアーナ225点だけ、しかも、単独優勝しかありません。

 これでお分かりでしょうが、カルアーナは優勝こそしましたが、ゲルファントとの同時優勝なので、世界選手権予選には出られないのです。この長丁場のグランプリを勝ち抜いたのなら、もっと恩恵があってもいいと思いますが・・・。

 どんなシステムでも欠点はあると考えても、うーん・・・。何だか矛盾を感じてしまいますね。グランプリ・パリ大会優勝なのに世界選手権予選落ちです。カルアーナには、ただもう気の毒としか言いようがありません。

 以下に大会結果クロステーブルを掲載してグランプリの記事を閉じます。オールボワール、パリ!

順位 氏名 FIDE 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 得点
1 Caruana Fabiano 2779 ITA * 1 0 ½ ½ ½ 1 ½ 1 ½ 1 ½ 7
2 Gelfand Boris 2764 ISR 0 * 1 ½ 1 1 ½ ½ ½ ½ ½ 1 7
3 Nakamura Hikaru 2772 USA 1 0 * 1 ½ ½ 1 ½ ½ ½ ½ ½
4 Bacrot Etienne 2723 FRA ½ ½ 0 * ½ ½ ½ 1 ½ ½ 1 1
5 Grischuk Alexander 2785 RUS ½ 0 ½ ½ * ½ 1 ½ ½ ½ 0 1
6 Dominguez Perez Leinier 2757 CUB ½ 0 ½ ½ ½ * ½ ½ ½ ½ ½ 1
7 Ivanchuk Vassily 2731 UKR 0 ½ 0 ½ 0 ½ * ½ ½ 1 1 ½ 5
8 Ponomariov Ruslan 2756 UKR ½ ½ ½ 0 ½ ½ ½ * ½ ½ ½ ½ 5
9 Tomashevsky Evgeny 2703 RUS 0 ½ ½ ½ ½ ½ ½ ½ * ½ ½ ½ 5
10 Wang Hao 2736 CHN ½ ½ ½ ½ ½ ½ 0 ½ ½ * ½ ½ 5
11 Fressinet Laurent 2708 FRA 0 ½ ½ 0 1 ½ 0 ½ ½ ½ * ½
12 Giri Anish 2737 NED ½ 0 ½ 0 0 0 ½ ½ ½ ½ ½ *

 


FIDEグランプリ・パリ大会 (6)

[2013.10.03]

9ラウンド アニッシュらしい気迫あふれるプレー

rd9

 やっとアニッシュらしい気迫あふれるプレーが戻ってきました!

 たとえば次の局面、下図、23手目でのb4!は黒のクイーンサイドへの攻めをかわす、気迫がこもった1手だったと思います。

 不調のアニッシュに勝ってトップに立ちたいカルアーナも好手を連発し、その後、このゲームは形勢不明が続く大熱戦となりました。

 特にカルアーナにとっては、この大会で優勝すれば世界選手権の挑戦者決定戦に参加が決定します。相手は親友のアニッシュですが、不調のアニッシュに対しては、黒番でも当然勝ちをねらっていたことでしょう。

 定跡にピルツを選んだのは、やや白良しでも長期戦にして相手のミスを誘おうという作戦だったかもしれません。

rd9

ギリ vs. カルアーナ 23.b4! © Chessbomb

 カルアーナのうまい指し回しに、一時は危なかったアニッシュでしたが、結果はドローに落ち着きました。とはいえ、最後までひとつミスがあればどちらにも勝つチャンスありの好局でした。アニッシュがこの熱戦で調子を戻し、残り2ラウンドを戦ってほしいと思うばかりです。

 他の選手も軒並みドローとなったこのラウンドで、ナカムラのトップ、2位にゲルファント、カルアーナは変わりません。アニッシュの次の相手はイワンチュックに黒番です。

がんばれアニッシュ!

 

10ラウンド 楽々ドロー

 イワンチュックに対し、ペトロフで固く応戦したアニッシュ。 勝つチャンスもありませんでしたが、何の問題もなく、楽々ドローを取ることができました。明日は白番でナカムラとです。

 大波乱のトップ争い

 ところで、大波乱のトップ争いとなったのは、ナカムラがゲルファントに敗れたからです。ナカムラは単にドローで良かったのですが、本当に勝負は何が起こるか分かりません。

 また、カルアーナはトマシェフスキーと対戦し、すばらしい内容でゲームをものにしています。何と、ナカムラに抜かれた2人がトップに返り咲き。 1位と2位がまたもや入れ替わったということになりました。これで最終ラウンドが俄然面白くなりました。アニッシュと当たる黒番ナカムラが勝ちに来るからです!

11ラウンド 勝ちにいったのはアニッシュの方

girinaka

ここで白のアニッシュは 19.e6! と猛攻撃。ナカムラをピンチに追い込みました。

 ところが、ナカムラが採用したディフェンスはルイロペスのベルリンという堅いディフェンスでした。黒としてはドローにしやすいのですが、勝ちに行くような戦法ではないのです。むしろ勝ちにいったのはアニッシュの方でした。リスクを怖れず積極的に指し、緊張感ある局面になりました。(上図)

 一時はアニッシュが優勢かとすら思われました(…実際にそうだったようです)が、ナカムラのすばらしい反撃によってドローにされました。

優勝したのはゲルファントとカルアーナ

 トップ2人が早々にドローとしている中、勝って同時優勝をねらっていたナカムラにとって、勝つどころかドローが精一杯というゲームになり、不本意だったことでしょう。前のラウンドでゲルファントに負けたのが大きな誤算でした。

 優勝したのは、ゲルファントとカルアーナです。一時は単独トップだったナカムラは3位に甘んじることになりました。

非常に不本意な大会・・・

 一方、不本意というなら、アニッシュも後半少し良くなったとはいえ、結局1つも勝てず、最下位という非常に不本意な大会になってしまいました。今回優勝を争ったカルアーナ、ナカムラの2人とのゲームはむしろアニッシュの方が押し気味だったのですが、・・・大変残念としか言えません。しかし、世界トップレベルで戦っているのですから、こんなときもあって当然でしょう。

 こんな試練のときこそ、前を向くしかありません。悲観的にならず、気持ちを切り替えて、次の大会で調子を取り戻してほしいと思います。そして、私たちは信じて待っていましょう。世界チャンピオンも怖くないアニッシュ・ギリの超人的なプレーがまたきっと見られることを・・・。

 今大会への応援ありがとうございました!